過去を知り、未来を展望する~WebSig会議 Vol.35「インターネットの次に来る「不可避」な12のキーワードを読み解く」終了報告

モデレーターの馮です。こんにちは。

去る12月3日、2年9ヵ月ぶりとなるWebSig会議Vol.35「WebSig会議Vol35 インターネットの次に来る「不可避」な12のキーワードを読み解く」を開催しました。会場の協力はBacklogやCacooなどのツールでおなじみのヌーラボさんの東京オフィスです。ありがとうございました!

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本イベントは新旧モデレータ陣で盛り上がったケヴィン・ケリー著『〈インターネット〉の次に来るもの―未来を決める12の法則』を題材に、ゲストには同書の翻訳者でもある服部桂さんをゲストにお迎えして、改めて12のキーワードを読み解き、自分たちの未来について語り合う場として開催したものです。

参加者には同書に目を通しておいてもらうことをお願いしていたこともあり、前半の服部さんの解説、その後の、グループダイアログ(対話を前提とした話し合いの手法の1つ)ともに集中・理解が深まったのではないかと思います。

ここではイベントの終了報告とともに、〈インターネット〉の次に来るものを考え、来年に向けたメッセージをお届けします。

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(冒頭で会議の開催背景およびWebSig24/7について説明を行ったWebSig24/7代表・インテリジェントネット株式会社代表取締役和田嘉弘)

インターネットの過去・現在、そして、未来

服部さんのセッションは二部構成で、前半はこれまで服部さんが業務を通じて体験してきたテクノロジーの歴史と実際を、後半では本会議の主テーマである『〈インターネット〉の次に来るもの―未来を決める12の法則』を読み解き、会議後半のダイアログへと続きました。

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(豊富な知識と非常に深い経験に基づいたプレゼンテーションを行ってくださった服部桂氏)

過去から観た未来、実際の未来

服部さんは1978年に朝日新聞に入社、その後、AT&Tとのジョイントベンチャーへの参画、MITメディアラボ研究員などを経て、1989年朝日新聞科学部にてIT専門誌『ASAHIパソコン』の副編集長などを歴任した経歴をお持ちで、まさに、日本におけるインターネットの歴史を、メディアの立場で見続けてきた一人です。

さらに『人工現実感の世界』(1991年刊)をはじめ、多数の著書・訳書をお持ちです。

今回のテーマである書籍に関しては、著者のケヴィン・ケリー氏と長年の付き合いの中、生まれるべくして生まれたものとも言えるでしょう。

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過去から見た未来

書籍の紹介、ご自身の自己紹介に続いて、まずはじめに過去から未来の想像がどうだったのか?そして、それがいかに外れているかを反省するというところから話がスタートしました。

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最初のスライドに取り上げられているように、2016年の今、IT/ネット社会において偉人と呼ばれる人たちが予想した未来がいかに外れたか、それでも、今のような時代になっていることはなぜなのかという問いとともに、服部さんは「未来は予想できない」という真理についてコメントしました。

とは言え、1つ1つの事象・事件を振り返ることで、ターニングポイントとなるものが見えてきます。服部さんはこうしたものがあったことを知ること、その前後の状況を分析することは非常に大切であるとも述べました。

たとえば、コンピュータが登場した当初、今のようにまったく一般的ではなく、使っているのは偉人または子どもだけだったそう。つまり、専門的に取り組む人、それ以外は遊びとして楽しむ人のためのものとしてのコンピュータだったのです。

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また、今ではさまざまな意味を持つようになったハッカー。もともとの語源は1984年のハッカー会議から生まれたもので、コンピュータに関わる研究開発を熱心に行う人たちの総称として使われるようになったのです。

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また、このころからメディアの存在も変わったといいます。それはインターネットが登場したことによる情報流通の多様化、とくに新聞とネットの関係の変化が大きいと、ご自身の経験を踏まえながら服部さんは話を続けられました。このころから「ニューメディア」という単語が登場しはじめ、テキスト情報はもちろん、初の電子カメラ「MAVICA」の登場(1980年)や通信システムキャプテンの登場(1985年)により、情報の入口・出口の電子化が一気に進んだそうです。

そして、AT&Tの分割と通信の自由化が、その流れを一気に加速化させました。こうした背景の中、今の日本のIT/ネット社会に多大な影響を与えてた3つの事件についてもご紹介されました。

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これらの3つの事件は、日本の情報通信分野に大きな影響を与え、その後の進化の加速・鈍化いずれにも影響があったと言います。そして、日米の貿易戦争の影響など、単なる技術革新だけではなく、国家間の経済戦争にまで、IT/ネット、通信が関わるようになったのです。

その後、1990年代後半からは、Windows 95の登場によりコンピュータの一般化がさらに進み、次は、ソフトウェアの自由化、いわゆるフリーソフトウェアムーブメントの時代に突入しました。そして、ネットの一般化、Webサービスの進化、デバイスの多様化といった流れとともに、今の時代を迎えたことになるのです。

実はこのあたりの話については時間の関係からかなり駆け足で進んだのですが、ネット普及後の話でもあり、僕たちWebSig24/7でも取り上げてきた内容と重なる時代でもあるので、ご興味のある方はぜひ過去のイベント報告、あるいは関連書籍などをご覧いただければと思います。

12のキーワードを紐解く

ふだんあまり聞いたり目にすることのない、インターネット前のIT/ネットの歴史について学んだあとは、いよいよ本題の『〈インターネット〉の次に来るもの―未来を決める12の法則』へと話題が移ります。

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ここではケヴィン・ケリーの友人でもあり、原著の翻訳者でもある服部さんが、語り部として12のキーワードについてまとめてくださいました。以下、その要約をお届けします。ぜひこのキーワードを深く知るためにも、改めて書籍に目を通していただければと思っています。

1:BECOMING

普遍的な法則をしっかりと見る。物理法則に近い。世界は名詞より動詞、製品ではなくサービスへ。

2:COGNIFYING

すべてのものが、人間以外のものが知的になっていく。IQ as Services。

3:Interacting

AR/VRで拡張。経験を伝えるメディア。言葉ではなく経験・体験を伝達・共有。

4:Accessing

パッケージではなくサービス。オンデマンド経済。アクセスすることで所有の意味が変わる。

5:Sharing

共有、コラボレーション。ネットでシェアすることで価値が生まれる。それを担保するのがP2P(例:Wikipedia)。

6:Screening

これまでは本が知識の前提。固定化された情報が世界を決めていた。今はネット。情報の液状化→スクリーンが伝達媒体。スクリーンが前提。

7:Flowing

これまではデスクトップにあるものの概念で情報が作られていた。ネットにより情報は流れてつながるものになった。

8:Tracking

これまでをふまえ、すべての情報・データはトラッキングされる。怖い部分もあるがそうしていかないとユーザ自身が良いサービス・良い体験が得られない時代。プライバシーを隠すよりオープンにしたほうが良いという価値観。日記をつけなくても過去の巻き戻しができる時代。

9:Remixing

要素に分けることで新しい価値、リミックスできる時代になった。

10:Filtering

情報・データが増えれば増えるほど個人フィルタリングが求められる。

11:Questing

答えは見つかるようになった。答えが見つかったあとの新たな疑問を2倍作る。それが人間の能力。良い質問をする能力。

12:Begining

ネットが生まれた30年前、気づいていなかったがあったもの。それと同じく。30年後に今、2016年を振り返ったときに始まったものがあるはず。それを今、考える。

 

未来を知るための方法とは~自分自身で創り出すこと


こうした要約をていねいに解説したあと、改めて「未来とは?」というテーマを振り返りました。その中で服部さんはアラン・ケイの言葉を引用し、「未来を知る最善の方法は、自らそれを創り出すこと」であることを、これまでの歴史を踏まえて強く強調しました。

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さらに、もう1つ、「発明者は利用法がわからない。これを知っておくことも大事です」と、さまざまな事実と合わせて説明しました。

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最後に、次の2人の人物の言葉を引用し、プレゼンテーションを締めくくりました。

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ダイアログ~僕たちのインターネットの次に来るものは?

服部さんの非常に濃密なセッションを受けたあと、WebSig24/7の特徴でもある全員参加型の時間が設けられました。これまでWebSig24/7では、一般的なグループディスカッションに加えて、ワールドカフェやチーム別ワークショップなど、さまざまなスタイルの参加型プログラムを用意する中、今回、初めて「ダイアログ」というスタイルのグループワークを実施しました。

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ダイアログとは、「物事の意味を発見するために話し合う」ことを目的としたもので、従来のディスカッションと異なり、テーブルの意見をまとめるのではなく、参加した個人個人が何かを発見することを目的とした、意見抽出型グループワークになります。

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今回は3つのテーブルに分け、それぞれが服部さんのセッションに加えて、『〈インターネット〉の次に来るもの―未来を決める12の法則』から、各々の気付きを探し合いました。

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WebSigが考える<インターネット>の次にくるもの

約5時間という長丁場、しかも1冊の書籍を中心に据えた今回のWebSig会議。今までは、具体的なテクノロジーやIT/Webに関するトレンド、それに起因するWebの本質といったものをテーマに開催されることが多かった中、書籍をコンセプトの軸に置くことで、改めて情報に対する接し方を考え直すことができた場になったように思います。

書籍から知識を得る・技術を身に付けるということを、小さいころから学校で無意識に体験してきた僕たちが、大人になって改めて書籍を読み、さらにその内容を他者と共有し、確認し合うことができたのは、大変価値のある貴重な体験となりました。そして、ネット社会がますますフォーカスされるであろう未来において、「<インターネット〉の次に来るもの」が何か、そのヒントがわかったように思います。

今回、そのヒントではないかと、僕自身が強く印象に残ったのが、服部さんがセッションの最後にコメントされた「ジェネレーションが枠を壊す」という意見です。僕たちWebSig24/7は2004年に誕生してから今年で干支が一周する12年が経ちました。日本の学校教育で言えば、小学校・中学校・高等学校を卒業できる年数です。つまり、ジェネレーションが3世代変わっているとも考えられます。

このジェネレーションが<インターネット>という普遍的でありながら多様な枠をどのように壊していくのか、そして、壊されたあとに何が生まれてくるのか。それこそが、<インターネット>の次に来るものにほかならいのではないでしょうか。

さて、2016年も残り3日を切りました。今年のWebSig24/7はモデレーター内でのMTGを中心に、次に向けたものを探す1年でもあり、今回のWebSig会議Vol.35が、そこから生まれたアウトプットの形でありました。会議後の懇親会では参加者の一人から「もっと外向けのイベントをやることがWebSigなのでは?」というありがたいメッセージもいただきました。

来年はそういった声、そして、自分たちができることをさらに突き詰めて、また、皆さんと共有できるモノをお届けできればと思います。

最後になりますが、本年も大変お世話になりました。

良いお年をお迎えください。

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