徳力基彦さんの履歴書と今の日本のインターネットの空気感について話してきた

和田です。
少しおそくなりましたが明けましておめでとうございます。本年もWebSigをよろしくお願いいたします。

新年1つ目のお知らせは、WebSig行ってきたシリーズで、ネットコミュニケーションの水先案内人こと、アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 取締役 CMOブロガーの徳力さんに話を伺ってきました。

徳力基彦さん
tokuriki.com | AMN徳力のブログ

WebSig行ってきたシリーズの特徴でもある履歴書にツッコミをいれさせていただきながら、徳力さんと話してみたかった、オリンピックロゴ問題を例にした、今の日本のネットの危うさについてピザを食べながらライトに話してきました。

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徳力さんのどこよりも詳しい履歴書

徳力さん公式サイトのプロフィールはこちら。

新卒からNTT時代。評価されるということ

NTTに自分が尊敬している先輩がいた、ということでNTTに入社し、NTT時代はほんとに会社愛にあふれていたといいます。

新卒でイントラの担当をして、Notesとイントラネットに詳しくなった経験を活かして、IR担当時代にはIRサイトにも力を入れたそう。

結果、インターネットIR表彰で1位を取得するまでになったそうです、また、株主向けの冊子の配布方法を工夫して数千万円のコストダウンを実現させたりと活躍されます。

「けれど、ぜんぜん褒めてもらえなかったのがショックだった。」

そんな当時を振り返って、「NTTはインフラを99.999%安定稼働させる会社であって、新しいことをやって評価される会社ではない。いわゆる評価は加点ではなく、減点方式なのだと気づいた」とのことです。

そういった背景や、その時にグロービスでの出会いもあり転職することに。


ブログを書き始めて、仕事、会社と個人の関係の考え方が変わった


コンサルティングファームでいろいろなコンサルティングを1年ばかり携わっていたが、自分がコミットする仕事に対して、金の切れ目が縁の切れ目という現実や、自分の時給や能力と企業が支払う報酬額とのギャップになかなかなじめず苦しんでいたときもあったそう。

仕事以外では、時間があったのでオンラインゲームにハマりまくっていたと。(かなりディープなハマり方でした(笑))

結婚を機に対面もあって(笑)オンラインゲームは少し離れて、ブログにはまっていきます。

会社はアリエル・ネットワークに移り、「ブログが好きだったのもあるが、そこは計算も含めて必至に書きまくった」

「今スマートニュースにいる川崎さんとの出会いでそれまで、会社を有名にすることが良いことや、仕事はがんばって会社ですることと思っていた価値観が変わり、自分自身でいろんなコミュニティやセミナーなどに出ていった時期だった」といいます。

特にいわゆる76世代の集まりにはよく顔を出していて、5人しかいないというような狭い集まりにまで顔を出していたとのことです。

当時は「ビジネス系で長文を書くブロガーがあまりいなかったのもタイミング的によかったんだろう」とおっしゃってました。

徳力さんがアクティブにインプット、アウトプットを繰り返していた時期の後期にあたる2006年にWebSigにも来ていただいたのが、徳力さんとのはじめの出会いでもありました。


ソーシャルメディアブームの苦悩と原点回帰


2006年、アジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画します。その頃、ブログ界隈ではペイパーポストが流行っていた時期。

ブロガーと自己紹介したら、「お金払えば書いてくれるヤツですよね。」と言われたことがショックだったといいます。

そのアンチテーゼとして、海外のビジネスモデルを参考に、広告枠を売ろうというモデルでアジャイルメディア・ネットワークに携わります。「blog on blogという、いまでいうネイティブアド的なしくみも作ったが、売り上げ的には厳しかった」といいます。

「苦戦しながらもいろいろな施策を実施していったなかで、口コミブームの時代とブロガーイベントで流れが変わった」

「といっても、もちろんまだまだこの2007年当時ほどだと、ブロガーがメディアに取り上げられたりブームになったことで、期待値は上がったけれど、ブロガーイベントで集客を必ずしも実現できていたタイミングではなく大変だった」とのこと。

「とはいえ、たとえば、VAIOの開発担当者とユーザーが会えるなんていうのは、ファンにとってはとんでもない事で、その熱量は、企業側にも伝わるもので喜んでもらえたし、当時、メーカーがユーザーと直接コミュニケーションをとるという場もなかったので楽しんでもらえたケースも多かった」と言います。

「その後、ソーシャルメディアバブルが起こって、そのメインプレイヤーの1社として見られたこともあって、事業の幅もパブリックリレーションズ、広告販売、制作、コンサルと広げていった」

「これは良かった点もあるが、背伸びしすぎたところもあった」といいます。(ここの話は経営者の立場としてすごくおもしろく話ができたのですが、赤裸々な話しすぎてかけません(笑))

事業の幅を広げていったことは売上としてはプラスになった点もあるが、収支としては厳しい状況であったこともあり、「改めて、ファンを重視した会社になろう」、という原点回帰を目指します。

あらためて、"興味のない人に無理に書かせてはいけない""興味のない人のクチコミはリスクでしかない"という思いから、アンバサダー重視する方針に。アンバサダーダッシュボードなどをリリースし、長期的な契約が出来るようになったこともあり、ビジネスモデルも良い方向に変わってきたとのことです。

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誕生日の翌日だったのでお祝いさせてもらいました。


日本は広告脳が多い


パブリックリレーションを支援していくなかで、「お金を払ったのに数字にコミットしてくれない」という広告と単純比較されることも多く困ったことも多かったそう。

さらに、「当時の宣伝部は与えられた予算を"つかいきる"ことが目的になっている企業も多く驚いた」と振り返ります。

「良いものを作って、あとは広告宣伝で売ればいい。これでは、マーケティングにはならない。これが最近よくいわれる日本はマーケティングに弱いという現れ」と話が広がります。


オリンピックロゴ問題からみる今の日本のインターネット


1つの問題提起として、WebSigメンバーからこんな話題を出してみました。

オリンピックロゴ問題はいろいろな視点で問題があるが、ここで話してみたいのが、マスメディアがネットの不確かな情報を一次情報として扱うケースが増えていて、社会への情報の伝わり方がまずいことになってきているのではないだろうか。

極論すれば、中川淳一郎さんの『ウェブはバカと暇人のもの』は今もかわらないどころか、むしろたちが悪いことになっているのではないか。

スマホがあたりまえになったここ数年のWebでは、バカと暇人の基本はかわらないけれど、スキマ時間でネットに慣れてない"普通の人"が反応しやすい過激な情報につられるだけでなく、拡散してしまっているケースが増えていそう。

普通の人だけならまだしも、マスメディアも乗っかってしまっているきらいがあって、ネットを見ない人までネットの情報を歪んだ形で触れてしまっている。

ネットに昔から携わっていた僕らでも、内容は偏っていても文章がまともだったりすると、ふとすると信じてしまいそうなネタが増えてきたように思う。

オリンピックロゴ問題では、盛んにテレビでネットのコメントが出たが、かなり偏っていたのではないか。リテラシーが培われるまではまだだいぶ時間がかかると思うが、いまは過渡期のなかでもかなり危ない時期な気がする。といったものです。

徳力さんからは、アメリカはインテリのためのインターネットが始まりで、最初はバカには広がらなかった。日本では、総中流や識字率などいろんな理由があると思うが、一気に広い層まで広がったことも1つの理由なんじゃないか。

また、日本はマスメディアの価値が他のどこの国よりも高く、ネットの危ない極端な意見がマスメディアで増幅されるひどい状況は確かにあるという意見をもらいました。

企業の話では、「批判に弱い体質についても問題」という徳力さん。たしかにネットのクレームに対して敏感すぎる気もしますが、対応を間違うとさらに炎上する実例が蓄積されてしまったのも1つの課題な気がします。

個人的には、1999年の東芝クレーマー事件がインターネットの個人と企業の発信力と関係性に新しい社会が来ると感じ、インターネットの世界に入ろうと思った1つのきっかけになりました。

そこから17年経ち、これからのウソがつけない社会のなかで企業としてどのように振る舞うか。いまこの過渡期ではクレバーな対応もビジネスサイドでは必要だと考えさせられるトピックです。

そういった意味で、山本一郎さんのブログはまさにいま、一読の価値があると思います。
『GQ』でボツになった「五輪エンブレム」佐野研二郎さんのネット炎上関連の原稿と経緯について


他にも、"日本型インターネット"という個人的にもテーマにしているキーワードについていろいろと意見交換をさせてもらい楽しい時間を過ごさせていただきました。徳力さん改めてお忙しい中ありがとうございました。

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