Re-design:あたりまえになったWebを考えなおす~4回目となる「WebSig1日学校2013」,盛況のうちに閉校
2013年10月5日,八王子にあった三本松小学校(現デジタルハリウッド大学八王子制作スタジオ)で4回目となるWebSig1日学校が開校しました。
WebSig1日学校2013
http://1ds.websig247.jp/2013/
今回のコンセプトは,過去3回のテーマを引き継ぎながら「Re-design:あたりまえになったWebを考えなおす」と設定され,従来と同じく授業(13科目)とワールドカフェに加えて,WebSig1日博と題した展示コーナーの他,出張人狼およびスパゲティ・キャンティーレバーを題材にしたワークショップ,射的など,学びと遊びを体現した場が用意されました。
当日はあいにくの雨の中,総勢180名を超える生徒さんたちが集まり,それぞれの考えや目的に合わせ,学び,遊び,お互いの交流を深めました。
4回目のWebSig1日学校のコンセプト―価値観の変化の先にあるRe-designとあたりまえの変化
朝礼に続いて,WebSig24/7代表でもあり,WebSig1日学校校長の和田より,WebSig1日学校の狙い,今年のコンセプトについての説明がありました。
今年も朝早くからたくさんの方にお集まりいただき,また,サポーターやスポンサーの皆さんの協力により,いよいよ最初の授業が始まりました。
1時間でわかるインターネットとWebの歴史~共通授業
最初の授業を担当したのは,Yahoo! JAPAN ID本部長 楠正憲先生です。「再設計の歴史としてのWeb」と題し,1時間みっちりと,Web,そしてインターネットとコンピューティングの歴史講義を行いました。
ジュネーブにある原子核物理学の研究所(CERN)で開発されたWorld Wide Web(WWW)の話から切り出し,当時のコンピューティングや時代背景,その後のシステム開発等について詳細に説明します。参加者の中にはインターネット黎明期にすでに社会に出た人もいましたが,多くは学生時代からインターネットに触れている世代ばかり。古くもあり,新鮮な内容だったのではないでしょうか。
その後,Windows 95の登場から家庭用インターネット,携帯電話,ソーシャルネットワーク,そして,現代のスマートフォン。その時々のトピックと,何が世界を変えたのか,変えなかったのか。「あたりまえ」の再設計をトピックとした授業は,「2011年初頭に起きたエジプト革命は,ソーシャルの力があれば個人が発信することができることを証明した一件でした。(この出来事に限らず)世界で何が起こるかはわかりませんが,この50年で色々なものは劇的にかわり,そのチャンスはさまざまな人に開かれています。そのきっかけになるのがインターネットでありWebです。ここにいる人の中から,5年後10年後20年後に世界を変える人が出てきたら面白いですね」と締め括り,終わりました。
Web産業を支える,受託の未来コースの授業~それぞれの立ち位置から
午後からは各コースに分かれての授業です。受託の未来コースでは,
- ・クラウド登場で変化した受託案件と開発スタイルのRe-design~リソースの変化とテクノロジーの進化/後藤 和貴先生
- ・未来へ繋ぐWeb系デザイン思考/長谷川 恭久先生
- ・TVの世界をクリエイティブでRe-design~宇宙と未来のニューヒーローを生み出す現場,バスキュール/西村 真里子先生
の3つの授業が行われました。
後藤先生
後藤先生の授業では,先生自身個人がどういう風に仕事と向き合ってきたのかを通して,もう1度,受託の世界を見直すという視点から話が進みました。授業を聞きに来た生徒の方々は,ディレクションをやっている方が多く,20~40代までの幅広い年齢・幅広いキャリア方たちが集まりました。
「これからは,お客さんや技術に合わせて自分の立ち位置を変えていく必要があり,そして,チームを必要に応じて変えていくことができる。それが,受託の未来にとって良いことだと。自分の役割をデザインして,自分の居場所を作っていくのが,受託の未来であり,Re-designではないでしょうか」というまとめの言葉で締め括られました。
長谷川先生
フリーランスとして活躍する長谷川恭久先生は,WebbSig1日学校では2回目の登壇となります。タイトルは「未来へ繋ぐWeb系デザイン思考」。ヤスヒサ先生が働いてきた約15年間の中で感じたことやそこから考えられる色褪せないデザインの考え方について,お話をしていただきました。
先生は,今回の1日学校のテーマであるRe-designを「本質に戻ること」だと言い切りました。「今作っているコンテンツを,5年,10年きちんと見てもらい続けるための仕組みはどうしたらいいのか,どういう風に配信すれば人に伝わるのかっていうところを考えたうえで作るという時期が来たのです。そうしなければ,確実に負けてしまう。そこで長期的にコンテンツの管理ができるような仕組み作りや,どんなデバイスでもコンテンツが見えるデザインを作れる能力が必要だ」とおっしゃっていたのが印象的です。
西村先生
バスキュールでプロデューサーとして活躍する西村真里子先生の「TVの世界をクリエイティブでRe-design~宇宙と未来のニューヒーローを生み出す現場,バスキュール」と題した授業では,同社の成長と展望に沿いながら,受託企業の未来と,次につながるヒントが多数盛り込まれた内容となりました。
最近のテレビと連携したコンテンツ創りを踏まえ,西村先生は「繰り返しになりますが,今後は"視聴者参加型""ダブルスクリーン"があたりまえになっていくのではないか」と考えられていると考察し,そのあたりまえの変化を楽しむことが受託の未来になると力強く断言し,授業を終えました。
あたりまえになったWebとの接し方~サービスデザインの未来コースで見えたもの
テクノロジー観点ではなく,日常の世界を観点にしたサービスデザインの未来コースで行われたのは次の3つの授業です。
- ・ビッグデータ時代に考えるインターネットの重力の最大化~情報価値のRe-design/大元 隆志先生
- ・新サービス"トレタ"が目指す、業務ツールの新しい「あたりまえ」/中村 仁先生
- ・スマホでタクシーをイノベーション!/川鍋 一朗先生
の3つの授業が行われました。
大元先生
ITビジネスアナリストの大元隆志先生はビッグデータとインターネットの重力をテーマに,サービスに向けた「価値」について授業を行いました。
さまざまな事例とともに,創り手として最も意識するポイントとして「サービスや製品がユーザに愛されていること」の重要性を強く訴えていたのが印象的です。今後は「ユーザは企業にとっての財産である」という考えを持っていくことが必要であることも説明しました。いわゆるファンづくりにもつながることですが,この点は「炎上しなければ目立たない製品というのは,創り手自身が本当に愛しているか疑わしい。創り手が本当に信じて愛している製品やサービスこそがユーザにも伝わるはず」という,大元先生の思い,そして,最近のネットの風潮に対してのメッセージが込められているのではないかとも受け取れました。
中村先生
家電メーカーから外食産業に参入し,活躍する中村仁先生は,食をテーマにした業務システムの改善とあたりまえの変化について,ITやWebの価値・可能性を取り上げました。
技術ではなく,使い手目線で考えることというのが中村先生の持論で,「"インフラを変革するという視点・わかりやすいUI/UX"によって"新しいあたりまえ"を創り出せると信じています。そのためには消費者の発想と,現場への深い理解が不可欠なのです」と,技術依存ではなく,環境全体の中での最適解を目指すこと,それがサービスデザインの未来につながるという言葉とともに締め括りました。
川鍋先生
こちらもIT/Webからはまったく畑違いの,日本交通株式会社 川鍋一朗先生が担当した授業となりました。
徹頭徹尾「課題第一,技術第二」の考え方を強調し,「特別な技術がなくても,課題をよくわかっているユーザであること,アクションを起こして課題を発見することを意識できれば,ソフトウェアもハードウェアも作れる時代になった」と,自身の体験とともに力強く語り,技術者の方に向けたメッセージとして「あまり先のこと考えず,作って,課題を考える。知識を必要な場所,必要なときに使ってほしい」という言葉を残し,非IT/Webの立場からの強い思いとともにサービスデザインの未来コースの授業を締め括りました。
広告・Webサービス・スマートフォン,あたりまえがあたりまえと認められること
個別授業は,さまざまなトピックを用意し,そのジャンルで活躍される方たちが先生として登壇しています。
- ・あたりまえだった広告の終わりとコンテンツマーケティングのはじまり/谷口 正人先生
- ・そのWebサービスは本当に「あたりまえ」だったのか?/和田 裕介先生
- ・スマホサービスにおけるあたりまえのデザイン/佐藤 洋介先生
こちらのコースは個性的な3名が登壇しました。
谷口先生
さまざまなおもしろコンテンツを開発し,提供し続けてきた谷口先生は「あたりまえだった広告の終わりと、コンテンツマーケティングのはじまり」と題した授業を行いました。
豊富な事例とともに,「広告とはなにか?」「おもしろさへの追求」,その先にあるビジネスとWebの未来,単におもしろいだけではなく,次につながるための動き,そこで行ってきた成功体験,失敗体験をおりまぜながら,「おもしろさ」の未来が拓けた授業となりました。
和田先生
Perl界隈のギークとして有名な和田裕介先生。boketeの開発などを踏まえて,自身のWebサービス開発経験,オープンソースコミュニティとの関わり,インターネットにおけるWebサービスをテーマにした授業が行われました。
和田先生の授業で印象的だったのは,「変わらないこと」を大切にする意識の説明でした。
「今回のコンセプトに含まれている「あたりまえ」というのはテクノロジーだけではなく個人の倫理観,集団における文化にもあります。
そして,デザインにおいてはいかに生活習慣に入り込むかどうかが重要であるわけです」と単に,理論的に説明できるものの「あたりまえ」を意識するのではなく,変化とともに存在する「あたりまえ」をどう捉えるかが重要としました。その中で,「だからこそ,変わるものと変わらないものがあるのでそこを見極めることが大事です。変化ばかりを追うのではなく,変化する必要のないもの,変化させてはいけないものというもの考えてください」というメッセージを残しました。
佐藤先生
佐藤先生の授業は,スマホにフォーカスして,コミュニケーションの歴史から振り返り,その未来について考えるというものでした。佐藤先生は,Amebaスマホをはじめ,今最もスマホに注力している企業の1つ,サイバーエージェントに所属し,その中で,スマホデザインを統括する立場にいらっしゃいます。
経験豊富な佐藤先生のメッセージの中で,とくに力強かったのは「UIとUXはまったく別物」ということ。
今,流行り言葉として,UI/UXが一緒に語られるケースが多く見られる中,佐藤先生は「UIは細部のことを言っていて,UXはUIを含めたすべての設計が織り交ざってどのようにプロモーションするかとかそういうことを含んだうえでのUXです。つまり,それらを一緒にフォーカスして考えてはいけないわけですし,デザイナーの仕事領域ではあるものの,現場レベルでそこまで判断して良いとも言えません。デザイナーとしては,まず,ユーザにとっていかに使いやすくするか・使いやすく見せるかなどをこだわることをお勧めします」と,説明しました。このメッセージを含め,佐藤先生の授業では,情報優先の頭でっかちにならず,そして何でも幅広く対応するのではなく,最優先課題を見つけ出すことの重要性が感じられました。
Webデザイン・グローバライゼーション・ネットPR,それぞれのRe-design
個別授業Bでは,幅広く,それでいて本質的なテーマの3つの授業が行われました。
- ・あたりまえになったWeb/インターネット時代の、デザイナーとデザインの可能性/長谷川 敦士先生
- ・グローバルでも食いっぱぐれない、職能Re-mapping&Re-design/荒井 尚英先生
- ・ネットPRの常識・非常識~2001年から現在までのネットPRを取り巻く"あたりまえ"の変化/神原 弥生子先生
1つ1つ,各ジャンルで豊富な体験をお持ちの先生方ならではの授業内容でした。
長谷川先生
長谷川先生の授業は「ネットがあたりまえの時代のWebデザイナーとデザインの可能性」です。長谷川先生はまず,Information Architecture(IA)の考え方について整理をするという講義の目的を示し,「Webサイトを使って主にコミュニケーションの問題を解決するデザイナー」がWebデザイナーであるという定義されました。
その定義のもと,広義のデザインとは何かなどを説明したうえで,(アウトプットにおいて)対象者や顧客との関係性など,体験全体を考えることはますます重要になっていくことを強調しました。「ユーザ自身がこれからますます体験値が増えていく中,そして,Webがあたりまえになっている今,単にWebデザインをやっているというだけでは特別扱いされなくなってきている。だからこそWebデザイナーは,「Outside-in」のような視点を持ってコミュニケーションをデザインしていくべき立場にいる」と締め括りました。
荒井先生
4年連続4回目の登壇となった荒井先生。毎年毎年,1年間の新しい体験を踏まえた,そして,世界視点での授業が行われています。今回も,昨年からの1年で体験したことを踏まえた内容で授業が進行しました。今回のテーマは,「グローバルでも食いっぱぐれない」です。
荒井先生は,これまで先進国としてのアドバンテージを享受してきた日本人の持つ平均的なスキルレベルは思いのほか高いという自身の実感を強調し,「グローバルソーシングマーケットで必要とされる職能を掲げ,自分をグローバル市場の評価に晒していこう」「あったこともない仲間との職能連帯(チーム)で仕事するようになる未来はすぐそこにある」と生徒たちを激励し,世界の中における日本および日本人の価値,そこへの期待とともに授業を終えました。
神原先生
ネットPRという言葉,そして分野を生み出した貢献者の一人,神原先生は,この「ネットPR」を本題に,Webやインターネットを通じた広報戦略,そして,メディアの変遷と未来について授業を進めました。
神原先生はこの10年を「こうなったらいいな」と考えていたことが実現されてきた期間であったと言います。それはネットPRの世界でも言えることで,ソーシャルネットワークが登場してからは「事実を伝えるニュースリリース思いを伝える・顔が見える公式ソーシャルメディア」というスローガンで事業を推進してきたそう。今は,それが実現したと断言します。その中で,「オープンでアーカイブされる場であること,それがインターネット。これは普遍的な価値です」とし,情報が氾濫している中,どのように情報を伝達するか,オープンな場に正しい情報を届けること,そのために自分たち自身が正しい情報を選ぶための意識を持つことが大切とし,「情報の信頼性を維持することはこの先も変わらないあたりまえ」として授業を終えました。
みんなで放課後気分を満喫~WebSig1日博
WebSig1日学校として初の取り組み,大規模展示コーナーをご用意しました。「Re-design」をテーマにしながら,新しい技術,コミュニティ,プロジェクトなどなど。さまざまな特色を持つ,8団体計13の展示が行われました。
上から順番に,
- COLORCODE VJ
- HappyPrinters原宿
- minepoke
- ShopCard.me
- Virtual Cycling
- 専修大学 渡辺達朗ゼミナール
- BASE(5ショップ)
です。
参加者・出展者,各々がその場,その空気を創り,楽しんでいました。
人狼にスパゲティ・キャンティーレバー!射的も!
みんなで遊べる人狼や,コミュニケーション促進型ワークショップ「スパゲティ・キャンティーレバー」も開催されました。
人狼
人の気持ちを探る,オトナのゲーム「人狼」。授業の合間に楽しむ生徒さんたちが多数いらっしゃいました。
スパゲッティ・キャンティーレバー
スパゲッティ・キャンティーレバーを担当したのは,今回でWebSig1日学校3回目の登壇となる佐藤好彦先生です。
【スパゲティ・キャンティーレバー】キャンティーレバーは建築の用語で,片側だけを固定して,反対側は空中に浮いている梁などの構造を意味します。アメリカのスタンフォード大学で開発されたワークショップの手法で,食材であるスパゲティの乾麺を使い,2人1組でスパゲティによるキャンティーレバーを作り,その長さを競うというもの。
このワークショップは,正解のない問いにペアで協力して取り組むなかで,問題解決や他者とのコミュニケーションに対するヒントに出会える可能性をもっています。ゲーム的な楽しさがあるので,難しいことは考えず,直感で,チームメイトと力を合わせて体験できるのが特徴です。
聞きなれない用語とは裏腹に,皆,最後は真剣に,楽しく取り組んでいたのが印象的です。
射的で学園祭気分を!
株式会社paperboy&co.(ペパボ)さんは,射的の展示を。昔懐かしい割り箸鉄砲で射的が楽しめます。あれ?真ん中のマトは?w
ほかに,おもいで教室には,昔懐かしい机と椅子,さらに制服(風の衣装)まで用意され,それを着て,若かりし時代を懐かしむ生徒さん,そして先生(?)もいらっしゃいました。
顔出しパネル制作協力 Syrup
恒例のワールドカフェで1日の復習を
授業やWebSig1日博を終え,最後は約1時間わたるワールドカフェを実施。これは,WebSig1日学校では恒例のスタイルで,それまで学んだり体験したことを踏まえて,参加者同士の交流,そして,各々の感じたことのアウトプット,気付きの共有を行うものです。
今回は「あたりまえになったWebは私たちの仕事にどのような変化をもたらすでしょうか?」をテーマに行いました。
終了後には,ポストイットにそれぞれの考えや思いを書き出し,体育館の壁に張り出すという,アナログなシェアを行い,情報共有の再設計を行っています。
オトナの放課後~懇親会
約8時間にわたって行われた授業の最後を締めくくるのは,「オトナの放課後」です。「オトナ」と付くとおり,アルコールありの懇親会が行われました。
ペパボ代表取締役社長佐藤健太郎さんの乾杯でスタートしたオトナの放課後。
食べながら,飲みながら,途中,HWCさんのプレゼンテーションあり,大プレゼント大会あり,参加者が気持ちを楽にしながら,その場を楽しんでいる雰囲気が伝わってきました。
次回に向けて
今回で4回目を迎えたWebSig1日学校。毎年,その時々のテーマをコンセプトに開催しています。今回の体験を踏まえて,次の未来に向けて次回につなげていきたいと思っています。
最後になりましたが,参加者の皆さん,先生方,サポーターの皆さん,スポンサー各社の皆さん,本当にありがとうございました。
また来年!!
レポート記事担当(敬称略):<ライター>:uno,木下未来,村下昇平,Hinako Kato
<カメラマン>:サトマミ,Mana Nakamura,makure,moshyumi,河内尚子
<編集・構成>:馮富久